2014年2月16日日曜日

外国の言語教育(2)・・・イギリス

今回はイギリスの言語教育について見てみましょう。

まずは義務教育についてです。
アメリカが州ごとの法律で決められており、就学年齢も州ごとに異なるのに対して、イギリスの場合は日本と同様に基本法として教育法があります。

これによって義務教育が定められています。


入学年齢は5歳になる学年(4歳の間)と定められており、通常は9月入学を基本としてますが、学校によっては1月、3月、4月入学を設定しているところもあります。

義務教育の就学期間は16歳までの11年間となっており、初等教育6年間(5~11歳)、中等教育5年間(11~16歳)となっています。
中等教育にはさらに大学などの高等教育機関に進学するための教育課程が用意されていますが、これは義務教育には当たりません。

この中等教育の後期の2年間はシックスフォーム(sixth form)とよばれ、ここに進学するためには16歳の時に学校外の試験団体による「中等教育修了一般資格(GCSE)試験」で所定の成績を獲得することが求められています。


また、私立の学校は国の認可を受けて登録し、国の監査を受ける義務を負っていますが、国の定めるカリキュラムに従う必要がなく教員も正規の教員である必要はありません。

そのかわり、国からの補助はないために公的な義務教育とは一線を画した存在となっています。


イギリスでは他のどの教科よりも「国語教育(英語教育)」に重きが置かれています。

かなりレベルの高い言語能力の遂行を幼稚園,小学校のうちから要求される一方で,教師たちは子どもたちが言語活動を通して考える力をつけることができるように足場かけすることが求められています。

アウトプット重視の社会性は、未就学児の段階から一貫しており、「子どもは話すことによって学ぶ」という考えが根底に流れています。
すべてのインプットはアウトプットするためにあるということが徹底されており、積極的な表現活動が低学年より求められています。

スピーチ活動、積極的な演劇活動、絵本つくりなどを低学年から実施しています。

全員参加での劇つくりが象徴的です。
誰もが脚本家であり演出家であり役者であり批評家です。
表現の研究をし、他人の演技を批判し全員参加で劇を作り上げます。




最高の表現をするためにはそれぞれの役割の中でどうあればよいのか、そのために必要なことはなんなのか、過去の同様な表現はどのようになされていたのか、などを新たなアウトプットをするために学んでいきます。

話すことによって個人の意見を重視し、その活動によって自らの考えを発展させようとさせる指導が行われています。


国語科だけでなくあらゆる科目において母語が前提であると考えられており、,「思考の発展」と「文法的に正しい英語」両方の向上を目指しての言語教育が徹底して行われています。

同じ英語を使いながらも、より正しい英語に対するこだわりがアメリカよりもずっと強いのはこのような教育の影響なのではないでしょうか。


イギリスのことばの教育は,「いかに自己表現できるか」を目指す点が非常に明確であると言えます。
言い方を変えれば母語としての英語について「鍛える」と言ったほうが適切なような気がします。

言語教育の目的が明確になっており、そのための技術としての言語技術として「読むこと・書くこと」が位置づけられています。

読むことは書くためであり、知識のインプットとしての価値を認めていません。

また、書くことはしゃべるためのものでもあるという、何よりも「国語」と言う感覚よりも「母語」を使いこなすための言語技術を磨くことにすべての科目が重点を置かれていることが見て取れます。





イギリスでは16歳の時に学校外の試験団体による「中等教育修了一般資格(GCSE)試験」を必ず受けなければなりません。
個人の将来はこの試験の結果に大きく左右されることになります。

「中等教育修了一般資格(GCSE)試験」の内容は事前に試験内容要目(specification)を作成し、出題形式や採点基準も公開されます。

内容要目としては、筆記試験60%、コースワーク40%となっているようです。
コースワークとは「自分のかかわる学校、あるいは地域社会における市民活動について」を1500~2000 語で書くものです。

筆記試験も4つに分かれています。
第一に短答式、第二に参考資料を使い如何に説得力のある文章を書くことができるのかを問うテスト、第三にコースワーク関係で生徒自身が自分で行った活動に関する内容やその意義などについて具体的に問うテスト、第四に3 問中1 問選択による小論文を書く形式のテストです。

書くものばかりです。
総合的な母語による表現力が求められるものなっています。

すべての知力の基礎が言語力にあることを明確に物語っている感じがします。


言語学習とは異なりますが、イギリスの教育制度の特徴の一つに「ギャップイヤー」が挙げられます。
大学の入学前の期間に(通常一年間)入学を繰り延べして、社会活動を経験することです。

様々な分野での活動が認められており、就労経験や奉仕活動、旅行などで専門学習の世界に飛び込む前に、社会経験として若者の自立と成熟を目指すものとして位置づけられています。

大学入学予定者の10%程度がこの制度を利用すると言われています。

様々な問題を解決しながら継続されてきた制度であるだけに、そこに学ぶものもあるのではないでしょうか。